カーテン・コール


薄明かりの中で目を覚ました。
ベッドが付けてある壁のカーテンから漏れる光がそれぞれの輪郭を青く染めている。
隣で眠る蜂散さんの深い寝息を確認して
そっと唇をあわせた。
いつもあんなに俺からのキスをせがむくせに、
ゆっくりと離れても蜂散さんは寝たまま。
残念でした。
俺からのキスは
これでまた当分おあずけです。
半開きの口がちょっと間抜け。
でもなんだかとっても愛しいんだ。
服を着ていない蜂散さんの胸に顔をうずめて響く鼓動にそれを思った。



毛布の下で蜂散さんの手を探して指の間に指を滑り込ませると
優しく力がこもった。
驚いて恐る恐る名前を呼ぶが返事はなし。
寝てるみたいだ。
でも、無意識な行動の分だけ余計恥ずかしい。

繋いだ手を目の前に持ってくる。
俺のよりもずっと大きくて長い指。
分厚い手のひらに少し鋭い爪。
そして、甲にはしる傷。
いつもは手袋に隠されている
その白く浮き出た傷跡を、俺は何度もなぞった。



蜂散さんと俺は暗闇の中で愛し合う。
電気を消し、真夜中でも更にカーテンを閉めて。
「全部見えちゃうとさ、ツユキのことだから恥ずかしがってさせてくれないでしょ」なんて蜂散さんはいったけど。
リヴリーの目が見えない暗闇の中でもモンスターは目が利く、という話俺がをきいたのはそのすぐ後のことだ。
じゃあ俺から見えないだけで蜂散さんには全部見られてるってことか、結局俺が恥ずかしいだけじゃないかと怒っても
彼はからから笑うだけだった。

俺だけに目隠しをする。
その理由を本当は俺は知っている。



ちゃんと蜂散さんが見たい。
俺はカーテンに手を伸ばした。

「…‥みないで」

伸ばした手ごと抱きしめられて、カーテンはまた外を隠す。
少し零れた光が消えた。

「みないで」

俺を後ろから包む広い体に力がこもる。

本当は俺は知っている。
俺の体をきつく抱きしめている、肘から指先、
その間だけでも多くの傷や痣が皮膚を染めていること。
それが体中に散らばっていること。
そして俺は知っているんだ。
それが少しずつ数を増やし、ひどくなっていくことを。




ベッドの上なんだから痛くなんてないのに
必要以上に優しく俺を押し倒して蜂散さんはキスをした。
下唇を柔らかくかまれたのも束の間、
いきなり息もする間もない熱さと激しさで
蜂散さんの舌が俺を犯していった。
思わず逃げようともがいてもびくともしない強い力で押さえつけて
蜂散さんは続けていく。
苦しい、苦しい。
でも。
痛いほどの気持ちに応えたくて、
彼の後ろ髪をつかんで俺からも唇を押しつけた。
思わず流れる涙。
いつもは舐めとられるはずのそれも、流れるまま。


近ごろあなたの愛し方には
いつ最後になってもいいような、そんな必死さがみてとれる。
本当に今、この時が最後になっても、
あなたは。


「そんな顔するなよ、ツユキ」

優しく髪を撫でられる。
その手にすり寄ると、
また涙が滑り落ちた。

「今はツユキのことだけ愛してるから」


あなたは、耐えられるのですか。



触れる素肌が気持ちいい。
あたたかい。
このまま離れなくなってしまえばいい。
縋るように抱きついて、ぎゅっと目を閉じた。

「ごめんね」

頷くこともできない。
首を振ることもできない。
声をだすのすら、危うい。

重ねた手に力を込めた。



カーテンのかかった未来。
未来なんて見えない、或いは見たくないのかも。
隙間から零れる光が青く輝くときだけしか
目を開きたくないんです。