”サンタさんへ ことしこそはボクとぷろれすしてください”

クリスマスツリーにかかった鯨涙手書きのサンタクロースへの手紙を見た蜂散の手が一瞬止まった
念のため小さな紙をひっくり返して裏側も確認してみたが、裏側は胃が痛くなるほど真っ白だ。
ということは、鯨涙の願い事は「サンタクロースとプロレス」ということになる。

「なんだよこれ、本気か?」

幸いひきつった蜂散の笑顔を見た物は誰もいなかったので、彼はその小さな手紙をまたツリーに引っかけた。
家の中は真っ暗で、もうとっくに鯨涙も寝てしまっているだろう、
きちんと行儀よく並んだクリスマスツリーの下のプレゼントたちが開けられるのを今か今かと待っているだけでそのほかに音は聞こえない、
なんとなく、誰かの心地よい寝息が聞こえるような気がするだけ。

クリスマスの夜、人の家に忍び込むサンタクロースはこんな気分なんだろうか。
キャラにもない想像を一瞬頭の中に思い描いて、蜂散は小さくため息をついた。
ちょうどそのため息が床に落ちるか落ちないかのところで、ガチャリと突然ドアが開いたのである。

「くらえーちょーっぷ!!」
「げふぁっ!?」

突然鳩尾にヒットしたチョップという名のパンチに蜂散は体をくの字に曲げる、
嬉々としてきゃっきゃっと喜ぶ声が足元からして、まさかと目を凝らした暗闇の中手をたたいて喜んでいたのは寝ているはずの鯨涙だった。
ふらふらとしてはいるものの、目はきらきらと輝いている。
危険、危険。蜂散は思わず顔をゆがめた。
こいつ、寝ぼけてやがる!!

「これでたおれぬとはさすがだなぁ!!でもこんどはもっといたいぞ!たぁーっつ!」
「うおぉっちょ、やめろ、ってぎゃああ!」

びゅおっ、とあり得ない音がして蜂散の耳元を鯨涙のパンチがかすめる、
ふらつく足取りにしてはこいつ本気で殺しにかかってんじゃねェかと思うほどそれはそれは素早い動きだった。
かすめた右のパンチに気を取られているうちに左のキックがクリーンヒットして、蜂散は情けない悲鳴を上げる、
もはやプロレスじゃねェぞこれ、寝ぼけているとはいえ一方的なリンチでボコボコにされてはいくらモンスターの蜂散でもたまらない。
サンタクロースへの夢をブチ壊すのは申し訳ないが、ここは俺だって正直に言わねェと殺される!

慌てて立ち上がって電気をつけようとスイッチに手を伸ばした彼の腕に、今度は鯨涙が関節技をかけてきた。
死に物狂いで引っぺがそうとした蜂散の本気が、逆に鯨涙の闘志に火をつける。

深夜、男の悲鳴で目覚めた鯉壱が、べきべきになって倒れ込んでいる蜂散を発見するまで、
鯨涙とサンタのプロレスごっこは続いたのだった。

蒼ソらさま宅鯨涙ちゃんお借りしました!プロレス超楽しかった!!((