とある雑居ビルの3F 、誰も知らない本屋は普段はとても物静か。
ただしこの日は違っていた、
黄色い声を上げてぎゃあぎゃあ騒ぐ男が一人、店の店主を苛立たせていたのだ
「君は本当にお馬鹿さんだね、あちしの言葉が聞こえなかったのかい?あちしは外なんか行かないと言ったはずだよ」
「聞こえた聞こえた、普段は店にこもりっきりなんだろ、だから今日ぐらい一緒にお外でようぜでるた!外は綺麗だよ〜綺麗なイルミネーションできらきらしてるよ〜!ほおら見たくなっただろ!?お外に行きたくなっただろ〜!!」
「(無視)あぁこりゃだめだ本当に耳が聞こえないらしいね」
酷いなァでるたちゃん!!俺ちゃんと聞こえてるよ!!
喚く蜂散にうるさいよ、ぴしゃりと一言そう吐き捨ててからδはしかめっ面を浮かべて椅子にすわりこんだ。
もちろんその手には分厚い本が握られていて、彼女が外に行く気が毛頭ないことを静かに、それでいてはっきり伝えている。
それでもあきらめきれないのは蜂散の方だ。
δにとってその本がどれだけ大事なのかということは頭の軽い彼には一生分からないことなのだが、
むしろ彼にはそれを横で眺めていてもなんて書いてあるのかすらわからないのだろうが、
それでも彼は今日という日が、女の子がひとり部屋に閉じこもって本を読むことに没頭すべき日でないことだけは判っていた。
なんたって今日はクリスマス、彼は窓の外の大通りで華やぐイルミネーションにちらちらと視線をやりながらδへ小さなため息を一つ落とす。
「もう、!なんでδ本読んでんの!?信じらんねェ!!」
「ここに知識が書いてあるからだよお馬鹿さん。他に言葉が必要かい?」
「そういうんじゃなくて!!!」
今日クリスマスなんだよ!?恋人たちが!手に手を取って!!きゃっきゃうふふする日だろーが!!
わあわあと騒ぎ続ける蜂散にδはもはや耳栓まで持ち出してきて、蜂散がみている前で堂々とそれをつけて見せようとするから、
蜂散は平然と無表情を浮かべたままのδの右手を思わず掴んだ。
「何の真似だい」
δの「鬱陶しい」をそのまま表情にしたような視線がずい、と蜂散を睨む。
蜂散は慌ててごめんと一言呟くとぱっとその腕を離したけれど、まだどこか不服そうで拗ねたように唇をつきだして言った。
「俺はδと外に行きてェんだよ」
δはその言葉を聞くなり小さなため息を一つだけ吐きだすと、
「君は本当にお馬鹿さんだね」、と呟いて、黙ったままの蜂散の頭の上に読んでいた本をガツンと落とした。
@鳳さま宅δちゃんお借りしました!